2005年12月2日金曜日

丘を下る蒼いプジョー

俺もいくつもの欠点を抱えてて、直したいんだけど、それ自体が俺のアイデンティティーの一端だったりして、それがなくなれば俺ではなくなるわけだけど、改善を放棄するのも社会に生きる人間としていかがなもんかとも思うので、個性を失わない程度に中庸を目指したいと考えている今日この頃だ。


昨日の朝もまた時間ギリギリに家をでた。慌しく鍵をかけ、アパートの階段を下ろうとした時、ちょうど上から見慣れた住人の兄さんが降りてきた。お互い元気よく挨拶を交わし、俺は駅までの遠い道のりを走り出した。ある期待を胸に。
その兄さんはプジョーのオーナーだ。年齢は30代後半と言ったところだろうか。彼の車に乗り込む姿を何度も目撃していたし、俺の知人の何人かも彼と遭遇していた。その度、彼は誰に対しても品良く挨拶をしてくれるのだった。

学校の先生じゃないか?音楽の先生をやってそうじゃん。

チェックのシャツにセーター、チノパンを着こなし、蒼いプジョーで通勤する。社交的だし、品がある。そしてこのアパートが楽器演奏可となると、みんなの憶測はだいたいその線に収まった。
俺は腕時計を見ながら駅へ向かう道を下っていた。普段も小走りなんだが、明らかにそれより1、2分遅れていた。この1、2分はでかい。普段の小走りでは間に合わないということだ。ややストライドを大きくした。
突然、フォッ!!と後方からクラクションを鳴らされた。振り返るとその蒼いプジョーだった。

「急いでいるようですけど、乗っていきますか?」

おおお!!メシアだ!

俺は恐縮し、感謝し、乗り込んだ。プジョーの中も彼の外見同様、小奇麗だった。踏切まででいいと申し出たが、駅が通り道だとのことだったので、ついでに送っていただいた。本来なら息を荒げて走っているはずなのに、座っててたどり着いてしまう快感は何ものにも換えられなかった。
そして、同時に職業を尋ねる絶好のチャンスだった。俺たちの推測は果たしてあっていたのか、興味津々俺は尋ねた。
百合ヶ丘に着くとあつくお礼を申し上げ、車を降りた。 勤務地は大学とのことだった。助教授だった。まあ、先生という推測はあながち間違ってもいなかった。生物系の研究をしているらしい。そして、彼はバイオリニストでもあった。


爽快な朝だった。
見上げれば空は蒼かった。
人生はドラマの連続だ。
彼の優しさに感謝し、彼への恩返しのためにも、もう走っている姿は見せられないと思った。

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